今年の確定申告では、弊事務所にはなぜか譲渡関連が多く舞い込みました。
非上場株式の譲渡で総合所得という事例もありましたし、居住用不動産の譲渡の事例も複数、また不動産で近親から相続したが居住用ではない事例もありました。収用の証明書が届いた、という事例も複数。
非上場株式の譲渡の場合は、何しろ源泉もされずに総合課税なので、それこそ「その1」で書いた退職所得の件とは違い、第1表上であからさまに合計所得に算入されていますね。創業時のわずかな出資がけっこうな売却価額に化けたような場合では、つまり合計所得をとおして控除計算にもかかわりが出ますし、また、所得税で終わらずに住民税、さらには国民健康保険料などにも波及します。
居住用財産の譲渡では、譲渡損失が他の所得と通算できる場合があります。つまり損失で他の所得を相殺し減額できる!(ローン残高があったことや、買い替えで新規に住宅ローンを組んだことなどが要件となりますが、詳細は別の機会に。)家の買換え(新築)で、旧宅があまり高く売れなかったと言っていた社長さんは、この「損益通算」で今年の年調でいったん確定していた所得税額が全部戻ってきて驚いてました。ちなみに、このケースでは、新しく購入した住宅のほうで組んだ住宅ローンに再度「住宅借入金等特別控除」が使えます。残高が5千万円あれば初年度の税額控除額が50万円ありますね。社長さんも、これとの合わせ技で全額還付が実現したのでした。
居住用財産の譲渡所得かはたまた損失かの検討については、素人感覚や、ときには不動産屋さんのアドバイスも、間違いやすいところがあります。それは、減価償却を考慮しそこなうというところ!「土地と建物を3千万円で買って、10年後に2千8百万円で売った、だから損失だと不動産屋も言ってたよ」と聞いたら、税理士は「ちょっと待ってください!」とツッコミます(笑)土地はともかく、建物は減価償却によって徐々に元の取得価額から目減りしていく計算をしないといけないのです。土地1千万と建物2千万で合計3千万円で取得したものが、10年後に土地1千万と建物1千6百万円の合計2千6百万円に目減りしていたら、2千8百万円での譲渡ならこれは譲渡所得が2百万円あったという計算にしないといけないのです。
さて、譲渡損失にも、損益通算できる場合があると書きましたが、でも出来ない場合もあります。例えば、身内からの借入で建てている場合などですね。こういうケースで、譲渡損失が出たら、それは特に使えない。逆に、譲渡所得が出たら?居住用不動産の譲渡の場合であれば、実は3000万円控除できるという特例があります。特例って、適用してもらえるとありがたいんですが、実は、ちょっとリスクもある要素があります。確定申告して、その中で適用を主張しないと、税務署のほうから都合よくは適用してくれないんです。また、あくまで最初の申告から入れておかないと、「適用しないことを自ら選んだ」とみなされて、あとから取り戻しが効かないんです。
そこでちょっとこういうことも考えます。計算して、ごく僅かに譲渡損失と出た、としましょう。損益通算出来ないと分かっているケースなら、申告に入れても意味は無いことになります。でも、もし、仮に、ですよ。計算のどこかに狂いがあって、例えば税務署が調査に来て「この譲渡費用は引けませんよ」と指摘された結果、譲渡損失ではなくて譲渡所得だよと指摘されたとしましょう。これ、申告し直してください(修正申告)、と言われてしまうワケです。このとき、特例の適用を認めてもらえるかと言う問題が生じます。リスク無しとは言えませんね・・・。そういうとき、保険として、わざと少し譲渡所得が出る計算にしてしまい、その上で特例控除でチャラ、という申告の仕方をしておけば、問題無いという考え方もあるワケです。魔除けみたいなもんですが、鰯の頭よりは実効はありますね。
相続、それも親からではなく兄弟からの相続などで、住んできた実績も済む予定も無い物件を、数年内に売り払う、ということもありますね。これが数世代前からの相続を重ねたものなどならともかく、例えば独身のお兄さんが都会に独り暮らしのために近年購入したマンション、などということになると、その購入時の資料があるかないかが勝負の分け目、と言うケースもあります。購入時の契約書等があるなら、いくらで買ったものか(取得費)をそこで判断できます。それで譲渡損失だと判明することも多いでしょう。しかし、その資料が無いと、譲渡価額の5%しか取得費を入れられないことになります。つまり95%が譲渡所得ということとなり、売値の2割近くを税金で持っていかれてしまうのです!・・・親だけでなく、独り身の兄弟などとも、時には連絡を取って、財産関係のことなども話を交わしておくことが大事ってことですね。
いけねえ、さぼってないで仕事しろハヤシ・・・