「欠損金」と言う言葉があります。簡単に言うと税務上の「赤字」です。「所得」が「黒字」ですね。但し、所得ないし欠損金は、会計上の利益ないし損失に税務上の調整を加えて算出しますので、会計上は黒字でも税務上は欠損金が生じる場合や、会計上は赤字でも税務上は所得が生じ法人税等を納めないといけない場合もあります。
さて、青色申告法人(一部の例外を除いて法人はそうです)は、この欠損金を翌期以降に持ち越して(「繰越」と言います)、翌期以降に発生した黒字からこの繰越した欠損金を控除して所得を計算することが認められています。
これは、各期の税負担と言う面から見るとどういうことなのか、設例で見てみましょう。
仮に、X1期に100の黒字(税前)が生じ、X2期には80の赤字、そしてX3期に120の黒字(税前)が生じたとします。また、簡単に考えるために、税務調整は特に無く、シンプルに黒字の40%が税額だとします。但し欠損金の繰越控除はアリ、という設定です。すると、次のようになりますね。
税前利益(△は損失) | 所 得(△は欠損金) | 税額 | 税引後利益(△は損失) | |
---|---|---|---|---|
X1期 | 100 | 100 | 40 | 60 |
X2期 | △80 | △80 | 0 | △80 |
X3期 | 120 | 120 | 16 | 104 |
実は、この3期の累計で言えば、次の等式が成り立っています。
通算所得140(←100-80+120)×40%=通算税額56(←40+0+16)
つまり、欠損金の繰越控除を認めることによって、中長期的には通算所得に見合った税額を負担する結果になっているということです。欠損金の未使用(「控除未済欠損金」)が残るX2期までの段階ではこの計算は成り立っていませんね。X3期に繰越された欠損金80が全額控除された時点で、いわば通算所得と通算税額のミスマッチが解消されたことになります。
余談ですが、このミスマッチが生じない仕組みにしたいとしたら、どうしたらいいか分かりますか?・・・お分かりですね、赤字の期、上の例ですとX2期に、単に税額0で済ますのではなく、80×40%=32だけ、補助金をもらえたらいいのです(ここではマイナスの税金と考えてください)。するとX1期とX2期の通算は次のようなバランスに落ち着きます。
通算所得20(←100-80)×40%=通算税額8(←40-32)
このように、欠損が生じた会社にマイナスの税金が生じる仕組みを採用するとしたなら、欠損金の繰越控除の仕組みは不要だということになります。
ただ、そのようなシステムは、企業が、時には赤字も発生するとしても基本的には利益を重ねて存在し続けていくことを前提(「継続企業の前提」)としています。言い換えれば、そうでない企業、利益体質を身に付けることができない企業が、いずれは倒産するにしても補助金を貰い続けながら延命してしまうことを許すことになる。それは好ましくありません。
少し脱線しましたが、欠損金の意義、欠損金の繰越控除の仕組みと機能について整理してみました。少し余裕のある方は、後半の議論から「赤字だと税金を納めないでいい(※)のは得なのか損なのか」という頭の体操をお試みください。
※実際には、法人住民税の均等割に代表されるように損益状況に基づかない課税もあります。単純化した説明と御理解ください。